こんにちは ごまめです。
この時期、フランスでは大学、大学院、グランゼコール Grandes écoles の
オープンキャンパスが開催されます。
昨今の「学び直し」ブームの前から、こっそり、子育てが落ち着いたらもう一度
学校に行きたいと思っていたので、今回、子どもを預けるスケジュール調整が叶った
「ESIT」(École Supérieure d'Interprêtes et de Traducteurs )国立通訳翻訳大学院の
オープンキャンパスに参加してきました。
この大学院のオープンキャンパスに参加しようと思ったきっかけは、
その昔、基礎をたたきこまれたフランス語の先生がこの大学院を卒業されていて、
「語学で食べていこうと思ったら、ESITの卒業証書ほど効果があるものは無い!」
と断言されたのを機に、興味を持ちはじめ、
その後、仕事でESIT卒業の日本人女性通訳者とお話しする機会があり、
一体どんなふうに通訳の技術を習得するのか、興味があったためです。
勉強しなきゃ!と思って受験したDALF C1 についてはこちら ↓
ESIT はフランスで唯一の国立の通訳、翻訳に特化した専門大学院で、
パリ第三大学( Sorbonne Nouvelle ソルボンヌ ヌーヴェル)に併設されています。
学校の公式サイト(フランス語のみ)↓
HPで指示されていたとおり、オープンキャンパス出席のために事前にメールで連絡し、
土曜日の朝早くから、勇んで出発!
当日はパリ市内でストライキが予定されていたため
前々日にプログラムの変更がありましたが、無事に到着でき、ひと安心でした。
大学の入り口 ↓
最近、新設の校舎になったとのことで、外観も内装もめちゃキレイ。
この日のオープンキャンパスは、
License リソンス(日本の大学にあたり、計3年で卒業)
Master マスター(日本の大学院にあたり、計2年で卒業)の両方だったため、
来ていた人は Terminal ターミナル(高校の最終学年)が多かった印象。
父母と来ている高校生もちらほら。
わたしもあと10年ほどしたら子どもを連れてくるのかしら。
中庭から見る校舎も、近代的なデザイン ↓
お天気が良くなかったものの気温はそれほど低くなく、
この中庭でお昼ご飯を食べながら、どの学科の聴講をするか相談してる人がたくさん。
終日たくさんのプログラムがあるようで ↓
ESIT の総合説明会の会場には120人強の出席者がいました。
翻訳科、通訳科と、手話通訳科の3つのパートの説明を受けたあと、質疑応答。
その後、通訳科の模擬授業(マスター1年目の授業と2年目の授業の2コマ)に参加。
学校の方針、学科の説明はこちらのページで紹介されていたのがわかりやすかったです ↓
<めざせ語学マスター>ヨーロッパで通訳になる(フランスESITの例) | Over The Frontier
会場は8割が女性、男性はちらほら...という感じ。
語学系はやはり女性が主流の仕事、と教授のひとりがおっしゃってました。
入学にあたり、わたしのように母国語がフランス語でも英語でもない場合は、
第一言語(A言語)として日本語を選択、
第二言語(B言語)としてフランス語もしくは英語を選択
第三言語(C言語)として、フランス語もしくは英語を選択
することが必要。
ここでのポイントは、第一言語(A言語)は母国語として証明は不要だそうですが、
第二言語(B言語)はDALF C2レベル(最上級レベル)以上必須、
第三言語(C言語)でも、C1レベルは必須、とのこと。
またそれに加え、第二言語(B言語)で12か月以上継続して滞在した経験必須、
また第三言語(C言語)は6か月以上継続して滞在した経験を強く推奨、ということ。
座学だけではなく、その土地で生活習慣や文化を感じ、
学んだか否かを重視しているとのことで、「継続して」というのは必須です、
と説明がありました。
毎年入学試験で抜け穴を探すように「3か月の滞在」と「8か月の滞在」で合計12か月、
と主張する生徒がいますが、それは認めません、とぴしゃりとコメントがありました。
このハードル、かなり高いと思っていて、
高校卒業から大学入学までのギャップイヤーや、
大学卒業後にESITに入学するぞ!という強い意志の元、かなり計画しておかないと
条件を満たすのは大変だな…と思いました。
そして、続く同時通訳の模擬授業を受けて、この入学条件のつけかたに、納得。
模擬授業では、2023年1月のダボス会議でウクライナのゼレンスキー大統領が行った
英語の演説を、フランス語に同時通訳するもの。
現役の英仏通訳科の2年生 3人がそれぞれブースに入り、
教授とわたしたちがイヤホンで通訳を聴講。
で、何がすごいって、インターバルが無く、ほんとに同時通訳。
英語とフランス語って、形容詞の場所や文章の組み立てが違うのに、
3秒くらいの差で、サッ!とフランス語訳がでてくる。
数字も、○○協定などの固有名詞も、専門的な用語まで。
複雑な構造の文章であっても、ちょっとインターバルが長くなるものの、
何かしら「つなぎ」の情報はすらすらと出てくる。
経験値や回数をこなしている結果だとは思いますが、
語学力、体力、集中力に加え、「センス的な何か」が必要だ、と強く感じました。
この「センス的な何か」は何か??
授業の最後に、聴講生のひとりが「ESITに来るまでの経歴を教えてください」と
質問していて、その答えを聞いて「センス的な何か」がわかりました。
わたしたちが聴講した英仏通訳科2年生も、教授も、
みんなバイリンガル環境で育っていて、母国語とその他言語の垣根がめちゃ低い。
「母親がイタリア人で、生まれてからずっとフランスですが、
家でのコミュニケーションはすべてイタリア語です(伊仏通訳)」
「父親が外交官で、3歳から8歳までアメリカ、
その後オランダで15歳まで過ごし、フランスで高校進学(英仏通訳)」とか、
「ドイツ国境近くのベルギー育ち、
親の仕事の都合で高校からフランスのインターナショナルスクールに通い、
大学はイギリス(英仏独翻訳)」とか。
生まれたときに持ち合わせていた環境による影響が大きい!
この壁って、純粋に単一言語の環境で育った人には超えるのは相当難しいと思う。
もちろん日本にいながらにして語学を磨き、
素晴らしい同時通訳をされる方もたくさんいらっしゃる。
とはいえ、生まれたときから複数言語の環境で育った人と同じレベルになるためには
相当な努力、鍛錬が必要になる。
そのためには、かなりの時間と労力が必要。
いまわたしができるのは、とりあえずフランス語の能力を高めることぐらいだな…と
模擬授業の会場を後にしました。
ESITに通うとなると、2年間の猛勉強(しかも1年目で脱落者が多い)の末、
卒業直後はAuto Entrepreneur(自営業)登録をして、仕事をもらえるように営業活動。
仕事のメインは、UNESCOやNATOなどの国際会議なので、
そういった大きい会議の仕事をとるためには、
自分より経験があるつわものたちと同等に戦い、
自分の実力を磨いていかなければならない。
いったん軌道に乗れば、安定した仕事、収入を得ることも可能ですが、
そこまでいくには、 bouche à oreille 口コミや伝手でネットワークを広げるしかない
(しかもその間に自分の実力も向上させて!)
体力的にも精神的にも、強くなければならない仕事だと思いました。
とりあえず、オープンキャンパスに参加することで、
自分のフランス語はまだまだだと認識できたよい機会でした。
今日はここまで。
ESITについて興味があるかた、通訳翻訳関係の仕事に興味があるかたの
参考になればうれしいです。
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〇おまけ〇
模擬授業では、通訳科2年生に加え、通訳科1年生の授業もありましたが、
こちらはちょっと効率が悪そう…と感じました。
同じ母国語をもつ2人または3人が、英語もしくはフランス語の長文を読み、
それを母国語でサマリーする、というもの。
英語、スペイン語、中国語の生徒さんがそれぞれサマリーしていましたが、
英語チームは、スペイン語チームが発表している時は手持無沙汰。
同じく、中国語チームが発表している時は、他のメンバーはすること無し。
この授業の教授はすべての言語をわかっているわけではないので、
果たしてサマリーが良いものなのかどうか判断できないのでは?と思いました。
度胸をつけるという意味では、よい講義なのかもしれません。
〇おまけ2〇
唯一、わたしの境遇に近いかも?と思ったのは、
駐在員として中国に10年駐在」という経歴の教授(仏英中で翻訳)。
果たして、30台半ばで大きく仕事を変える決断をされたのはすごいと思いました。
こういう決断、自分にはできるかな...